東京地方裁判所 昭和51年(ワ)7799号 判決 1978年5月12日
原告
平和堂貿易株式会社
右訴訟代理人
阿部昭吾
吉原省三
被告
株式会社タイヘイ
右訴訟代理人
武川基
主文
1 被告は、別紙目録記載の標章を附した時計を輸入し、譲渡し、譲渡のために展示してはならない。
2 被告は、その所有にかかる前項記載の時計を廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。
事実
一 当事者の求めた裁判
(一) 請求の趣旨
1 主文1ないし3項同旨
2 仮執行の宣言<中略>
二 請求の原因
(一) 原告は、外国製時計等の輸入、販売及び時計等の製造、販売を業とする会社であり、被告は、皮革、布、化学合成生地の鞄、手提袋物その他雑貨類の製造、販売を業とする会社である。
(二) 岡田乾電池株式会社は、昭和三一年一〇月一五日、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を取得した。
登録出願日 昭和三一年二月二五日
出願公告日 昭和三一年六月四日
設定登録日 昭和三一年一〇月一五日
登録番号 第四八九七一三号
岡田乾電池株式会社は、昭和四四年一二月一日に、本件商標権を株式会社吉田時計店に譲渡し(昭和四五年三月四日移転登録)、株式会社吉田時計店は、昭和五〇年九月二九日に、これを原告に譲渡した(昭和五一年三月二二日移転登録)。原告は、昭和五二年七月四日存続期間の更新登録を経て、現に本件商標権の権利者である。
(三) 本件商標登録出願の願書中指定商品に関する記載及び願書に添附した書面に表示した商標は、別紙商標公報記載のとおりである。
(四) 被告は、昭和五一年初めころから継続して、別紙目録記載の標章(以下、「被告標章」という。)を附した腕時計(以下、「被告腕時計」という。)を輸入し、現にこれを株式会社三越銀座店など有名百貨店内の自己の売場等で販売し、販売のために展示している。
(五) そこで、本件商標と被告標章とを対比すると、両者は、いずれもCONTINENTALなる文字を横書きしてなるものであつて、観念及び称呼において全く同一であり、外観においても字体が若干異なるのみであるから、被告標章は本件商標と同一であるか、少なくとも明らかに類似している。そして、被告腕時計は、本件商標の指定商品に該当する。
(六) よつて、原告は、被告に対して、本件商標権に基づき、被告腕時計の輸入、譲渡、譲渡のための展示の差止とその所有にかかる被告腕時計の廃棄を求めるため、本訴に及んだものである。
三 請求の原因に対する認否及び抗弁
(一) 請求の原因事実は、すべて認める。
(二) しかしながら、本件商標権が原告に譲渡される前の本件商標権であつた株式会社吉田時計店及び使用権者らは、いずれも全指定商品について本件商標の使用をしていなかつたので、昭和四九年一二月二〇日に、コンチネンタル・エコノミツク・スイス・タイム・アーゲーは、同日前、継続して三年以上日本国内において本件商標が指定商品について使用されていないことを理由として、本件商標登録を取り消すことについて審判(昭和四九年審判第一〇五六九号)を請求し、翌五〇年一月三一日右審判の請求の登録がなされた。
かくして、本件商標登録は早晩取り消されることが明白であるから、かかる運命にある不確実な商標権に基づいて、被告腕時計の輸入、譲渡、譲渡のための展示の差止と被告腕時計の廃棄を請求することは、権利の乱用にあたり、許されないものというべきである。
四 抗弁に対する認否《以下、省略》
理由
一請求の原因事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二そこで、権利乱用の抗弁について検討するに、本件商標権が株式会社吉田時計店から原告に譲渡されたのは昭和五〇年九月二九日(ただし移転登記は昭和五一年三月二二日)であり、同会社が岡田乾電池株式会社から本件商標権の譲渡を受けたのが昭和四四年一二月一日(ただし移転登記は昭和四五年三月四日)であること、被告主張の会社が昭和四九年一二月二〇日、商標の不使用を理由に、本件商標登録を取り消すことにつき審判を請求し、翌五〇年一月三一日右審判の請求の登録がされたことは、いずれも原告の認めて争わないところである。右争いのない事実によれば、右不使用取消の審判の請求がなされた時及びその登録がなされた時より前三年間の本件商標権の権利者は株式会社吉田時計店であることが明らかである。
しかしながら、被告が主張するように、右審判の請求がなされた時以前三年間継続して、当時本件商標権者であつた株式会社吉田時計店及び使用権者らが、いずれも指定商品につき本件商標の使用をしなかつたことを認めるに足りる証拠は全くなく、かえつて、<証拠>を総合すれば、前記三年の間、旧平和堂貿易及び原告が、当時本件商標権者であつた株式会社吉田時計店の許諾を得て、スイス国ローヤル社製の腕時計に欧文字で「Continental」なる商標を附して使用していたことが認められる。しかして、右商標と本件商標とを対比すれば、さきに確定した両商標の構成に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、後者はそのすべてが大文字活字体の肉太の文字から成るのに対し、前者は頭文字のCのみが大文字で、他は小文字から成る点において、その字体を若干異にするが、両者は同じ欧文字一一字を普通の書体をもつて横に配列した基本的構成を共通にし、両者の構成から生じる称呼及び観念において全く同一であり、外観においても取引上実質的な差異はないものと認められるから、右商標はなお本件商標と同一の範躊に属するものということができ、したがつて、旧平和堂貿易及び原告が右商標を使用していたことは、本件商標が使用されていたものというに妨げがない。 そうすると、本件商標登録が、不使用を理由に、早晩取り消される運命にあることは明白であると断定することは、困難といわざるをえないから、これと異なる前提に立つ被告の右抗弁は、進んでその余の点につき判断するまでもなく、理由なきものとして、排斥を免れない。《以下、省略》
(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)